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文筆家のツレヅレハナコさんと弊社代表の新原光太郎が対談をさせていただきました。新原曰く、「ハナコさんの書籍を見ていると、さっき食べたばかりなのにお腹が空く。そして簡単そうに見えるから作ってみよう。となる。」とのこと。これが実に不思議だと。

 

日本茶は、本来「簡単」であるもの。と考える私たちにとってツレヅレハナコさんとの対談は、とても楽しみでもありました。

 

お二人による、「お茶の時間」や「いい道具」についての対談を、是非最後までご覧ください。

 

 

ツレヅレハナコ食と酒と旅を愛する文筆家。著書に『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)『47歳、ゆる晩酌はじめました。』(KADOKAWA)、『食いしんぼうな台所』(河出文庫)、『ツレヅレハナコのおいしい名店旅行記』(世界文化社)など多数。

instagram @turehana1

 

 

 

 

新原: ハナコさん、いきなりですが、日本茶に品種があるのをご存知ですか?

 

ハナコさん: 品種?日本茶の茶葉の種類のことですか?わからないです。考えたこともなかったです(笑)。

 

新原: 例えばペットボトルで出ているお茶、商品名は浸透していますが、それに使われている品種についてはほとんど語られていないんです。一般的に語られることはなく、隠れた存在になっています。私自身、お茶屋の息子として育ちましたが、家業に入るまで茶の品種について全くの無知でした。働くようになって、品種によって味にこんなにも違いがあることに驚いたくらいです。

 

ハナコさん: コーヒーであれば、どこの豆が好きだと決まっていたりとか、豆に種類、産地があるのが当たり前となっていますよね。しかし日本茶って、煎茶かほうじ茶くらい、カテゴリーの認識しかなくて。それかペットボトルのものか、くらいかも。

 

新原: 品種の違いとその美味しさを知ってもらいたくて、私たちのお店では品種を推しています。日常の消耗品なので、緻密な深さとかを追い求めてしまうと窮屈になってしまうのですが。ただお茶の個性を知っておくことで得られるものもあります。「さえみどり」という品種だとお饅頭が合うとか、「あさつゆ」だと煎餅に合うとか、楽しみ方も変わってきます。そんなことを思いながらいつもお茶を淹れていますね。

 

 

ハナコさん: 面白そう。全然知らない世界です。

 

新原: 例えば、「どこのお茶が好き?」と聞かれて、ブランドや販売店の名前を答える方は多いですが、こういう時に品種の好みや産地を答える方が出てきたらいいなと。

 

ハナコさん: 現在、品種の種類はどれくらいあるんですか?

 

新原: 約100種類くらいです。実際に流通しているのは約20種類くらいですかね。

 

ハナコさん: そんなにたくさんあるんですね。実際、お店に買いに行っても気にするのは等級や新茶であるかどうかくらい…意識しているのはそれくらいかもしれません。中身がどのようなお茶なのかも、そもそも記されていないような。

 

新原: そうなんです。そういう状況を自分なりに分析してみると、今も昔も静岡がお茶の中心でして。生産している品種はほとんど「やぶきた」というものです。かつては90%くらい。お米で言うとコシヒカリのような存在ですね。「やぶきた」は美味しくて、病気にも強い。育てやすいし、美味しいし、万能な品種で万人受けする。静岡を象徴する品種です。

例えばある年の「やぶきた」に甘味が足りない場合、他の産地のお茶を混ぜて、茶師と呼ばれる方々が味を作り、ブレンドとして売っていきました。それが技でもありました。なので店頭の表示などで「やぶきた」の名前を知ってる方も多いと思いますが、他の品種に関して知らないという方は多いかもしれません。あくまでも自分の調べですが。

 

ハナコさん: なるほど。「やぶきた」の名前は聞いたことがあります。

 

新原: 私たちは日本茶の品種を打ち出して販売して10年になります。品種とその味の違いに触れたお客様から、「なにこれ!」「もっと早く教えてよ!」と言われることも多くて(笑)。ワイン、コーヒー、紅茶に関しては詳しい方も多くて、その知識がコミュニケーションにもなっていますが、日本茶に関しては「わからない」という方も多くて、先入観から構えてしまうのもあるかと思います。自分たちのお店では、日本茶のことをあまり堅苦しくなく、カジュアルに伝えたいなと思っています。鹿児島は後発の産地ということもあり、静岡、京都のお茶がしてこなかったこととして、品種を打ち出していこうと。

 

ハナコさん: 新しいことをやろうとしている産地ですね。その方が多くの方が興味を持ちますよね。

 

新原: 日本茶はみんな好きなんですけど、どうしても近寄りがたい雰囲気があるんですよね。

 

ハナコさん: 分かります。私もお茶が好きで、家で仕事をしているのもあって、一日中何かしらのお茶を飲んでいます。今回、対談のお話をいただいて、「そもそも何のお茶が自分は好きなんだろう」と考えてみたところ、日本茶の割合は多くないなと。自宅に常備しているけど、大体全体の一割くらいしか飲んでない。その理由は、やっぱり飲むタイミングを考えないといけなくて。あと、必ずお菓子がないといけないんじゃないかとか。ダラダラ過ごしながら日本茶を飲んではいけないんじゃないかとか。常に飲む時は畏まってないといけないイメージがあるなと(笑)。もちろん嫌いではないですよ。好きなんですけど、「今は日本茶を飲むタイミングだ」と思って飲まないと…と思ってしまいますね。

 

新原: それが逆に価値というか、良かった時代もあったと思います。コーヒーやワインについて専門家じゃない方が語っていたりするのをよく見かけます。知ってるからこそ語れるというのもありますよね。ただ、お茶の場合は「こんなこと言ったら、お茶のプロに怒られるんじゃないか」と思っている方が多くて。なかなか語る状況じゃないのかなと。だったら触らないでおこう、と思っている方も多そうです。

 

ハナコさん: それ、わかるなぁ。

 

新原: 自分が声を大にして言いたいのは、茶葉たちには何も罪はない(笑)。周りの人間たちが、勝手に茶の世界を作り上げていますから。自分は「所詮」という言葉が好きです。わきまえている感じがして。結局「所詮お茶」なんですよね。

 

ハナコさん: 不思議ですよね。日本人なのに日本茶が一番縁遠いと感じてしまう方は多いんでしょうね。思い返すとお婆ちゃんの家に行くと、お茶が当たり前のように出てきて、よく飲んでいた印象で。ずっと近くにあるものだったのが、そこから離れてしまっている感じがしますね。とっつきにくい、みたいな。今お話を聞いて、日本茶も新しい時代にきているんだと思いました。

 

新原: 今海外では緑茶がすごいことになっています。かなりの消費量で、もしかしたら日本人よりも海外の方が日本茶に詳しいかもしれません。よく私は人にこんな話をするんですけど、フランス旅行に行ってシャンパーニュ地方に滞在した時に、地元の友人に「美味しいシャンパンのお店を教えて」と聞いて、何も回答がなかったら残念に思います。逆に海外から友人が来て、「美味しいお茶が飲みたい」と言われた時に、「こんなところがあるよ!」と説明できるお店が増えてくれたらいいなと。

話が変わりますが、これまで私たちは、プロダクトデザイナーや伝統工芸士と急須や湯のみといったプロダクトの開発に携わってきました。格式が高いと思われているお茶が、少しでも身近に感じてもらえるように、そんな願いを込めてカジュアルに作ってきました。 しかし、それでもまだカジュアルに感じてもらえない現実がありました…

 

ハナコさん: 分かります。我が家にも伝統工芸の急須がありますが、全然使ってなくて。手入れが大変だし…

 

新原: ですよね。今回、さらに日本茶をカジュアルに感じてもらえるように、柴田文江さんをデザイナーに招き、ティーウェアブランド「racu」を立ち上げました。こちらが急須の『warenai』です。ハナコさん、ちょっと持ってみてください。

 

 

ハナコさん: これ、本当に軽い!めちゃめちゃいいな。

 

新原: 本当にいいんですよ。ハナコさんは柴田さんのプロダクトは使ったことがありますか?

 

ハナコさん: ファンです。とても使いやすくて、我が家にもたくさんありますよ。この急須、開口部が広いのがまずいい。これは手入れしやすいですよね。茶漉しも底面に近いくらい大きくて。茶漉しが小さい急須だと、結局茶漉しを取って、急須にそのまま茶葉を入れて。漉すのが面倒くさくて。こちらの急須は茶漉しは着脱がしやすいし、柴田文江さん、さすがだなと…これは最高ですね!!

 

新原: そうなんです、最高なんです!先ほどお話した過去のプロダクトで感じていた悩みを、柴田さんに聞いてもらいまして。私がやりたいのは、もっと日常的に使いやすいものだと。以前、自分は本格中華を自宅で作ろうと思って、鍋を一通り揃えたことがあります。結局、使いこなすことができなくて。そしたらうちの奥さんが某社のフライパンを買ってきて、それで調理したらとても使いやすく、しかも美味しくできて(笑)。こういうのを日本茶でやりたいなと思っていました。あと、イメージとして「AIBO」も…

 

ハナコさん: 「AIBO」?!ソニーのですか? ※AIBO=ペットロボット

 

新原: はい(笑)。動物と暮らしたことがなく、でも憧れはありまして。命を預かる責任を考えると、自分には無理だなと判断しまして。そんな時に「AIBOだったら…」と思って、お店まで行きまして。結局購入はしませんでしたが、責任や距離感を含めて心地いい関係性だと思いまして。これを日本茶でできないか、と思って柴田さんにご依頼しました。この急須に使わている素材は「トライタン樹脂」と言いまして、割れにくいのが特徴です。ハナコさんがエッセイで書かれていた某外食チェーン店でもワイングラスやコップで使われています。どうしても陶磁器の急須だと割れてしまうので…

 

 

ハナコさん: 今、ここにあるガラス製のティーポッドも、見事にフタだけ割れてしまって。フタだけ作り直していただいたこともありました。

 

新原: そうでしたか。うちにも依頼が頻繁にあり…お客さまも故意に割った訳ではないですし、ご連絡いただくたびに胸が痛くなってたんですよね。我々は催事にも頻繁に出てますが、久しぶりに会ったお客さんとの会話が「急須が欠けた」「割れた」という残念なお話になることも多くて…

 

ハナコさん: 今、お話を聞いて思ったのは、最近の調理器具などの多くは、時を重ねていく中で育っていくもの、それを良しとするものが多いんですよね。一方で『warenai』は真逆ですよね。変わらない、育たない、割れない、それってむしろ新鮮だなと。

 

新原: そうなんですよ。経年変化ではないプロダクトです。とはいえ、自分は育てるプロダクトももちろん好きで。以前はそれを目指してプロダクト開発をしていました。ハナコさん、こちらは柴田さんがデザインしたキャニスターになります。

 

 

ハナコさん: こちらも素敵じゃないですか!ここに茶葉を入れて…

 

新原: あとはコーヒー豆を入れたり(笑)。あとお菓子のストックもありですね。湯呑みは『itsumo』、キャニスターは『kirei』と言います。ちなみに両方とも割れるので注意です(笑)。

 

ハナコさん: いつも、きれい、割れないって急に具体的になってきますね(笑)。

 

新原: これまで育てる系のプロダクトを作ってきて感じていたことがありまして…実際、我が家で使うとなった時に、奥さんは最初ちゃんと使ってくれるんですけど、だんだん頻度が落ちていくのを目の当たりにして(笑)。無理して使ってたのかなと。やっぱり「割れるんじゃないか」「気をつけよう」というのは日々プレッシャーになってしまいますからね。

 

ハナコさん: そうですね。忙しい時もありますからね。私は調理器具の書籍を出したこともあり、ここにもたくさんあります。基本的に断捨離とか考えてなくて、好きなものをギュウギュウに入れてて、それに囲まれて生きているのが幸せだと思っていて。ミニマリストと逆なんですけど。それこそ木ベラとかも10本とか普通にあります。一回フライパンの作家さんと対談した時に、「何がいい道具だと思うか」と話題になって、二人で意見が一致したのが「気づいたらつい手にとってしまっているのがいい道具」と。色んな考え方があると思いますが。木ベラも「気づいたらこればっかり使ってるな」というのもあり。「他にもこんな素敵なデザインのものが家にはあるのに」と思ったりしまして。そういうのもありますよね。

 

新原: それ、ありますよね。

 

ハナコさん: 高級なものだったり、デザインがいいものも、それはそれで素晴らしいものだと思ってるし、大切なんだけど。「いつもこれ使っちゃうんだよね〜」というのがあると思いまして。『warenai』はその要素が詰まっていると思います。

 

新原: そう言っていただけるのは嬉しいです。ありがとうございます。急須を『itsumo』にすれば良かったですかね(笑)。

 

ハナコさん: 「割れない」方が重要ですよね(笑)。湯呑みも容量たっぷりでいいですね。

 

新原: あ、話が盛り上がってしまい、お茶も淹れずに…今から用意しますね。すみません!今日はハナコさんに「さえみどり」「あさつゆ」という品種と、ブレンドの「こくまろ」を試していただきたいと思います。あわせてお菓子も一緒に。「さえみどり」というのは、鹿児島で人気の品種です。

 

ハナコさん: 「さえみどり」は昔からある品種ですか?

 

新原: 市場に出回り始めたのは、30年前からですかね。品種も歴史がありまして、静岡の「やぶきた」に対抗して、鹿児島では「ゆたかみどり」というのが主流でした。その次に台頭してきたのが、「さえみどり」です。当店では「茶葉8g、お湯200cc」で一煎目を淹れます。

 

 

ハナコさん: 結構な量ですね!

 

新原: 自分調べですが、世の中の多くはお茶を「アメリカン」で飲んでますね。薄いお茶です。

 

ハナコさん: まさに。そういうものだと思ってました。一般的にコーヒーは計量して淹れる方は多いと思いますが、お茶ではまず量らないです。パーっと茶葉を入れるイメージです。

 

新原: そうなんですよね。「何やってんだよ、茶葉もちゃんと計ってよ…」とすみません。心の声が出ちゃいました(笑)。ハナコさん、こちらの茶葉を焼くと茶色くなり、ほうじ茶になります。ほうじ茶は一般的に安いですよね。手間をかけているのになぜ安いと思いますか?

 

ハナコさん: なんだろう…B級、C級の茶葉を使っているから?

 

新原: そうです。焦がしてわからないようにしてしまう。要はジャムと一緒で。見た目も綺麗で美味しいみかんは、みかんとして食べますが、皮に傷がついていたり、少し熟してきたものは、ジャムなどの加工品になりますよね。それと同じです。だからほうじ茶は大衆茶なんです。

 

ハナコさん: あー、なるほど。確かに煎茶は高級なものというイメージです。

 

新原: ついついコーヒーと比較してしまうんですが、コーヒーの生豆に該当するのが、緑茶の茶葉。焙煎したコーヒーは、ほうじ茶。焙煎の幅を考えると、緑茶の方が上まってると思います。すみません、ついつい熱くなりました…お茶を淹れます…

 

ハナコさん: 200ccのお湯にこんなに茶葉を入れるんですね!私、普段はこの半分しか入れてないかも。

 

 

新原: こちらも自分調べですが、なぜ一般的なお茶が薄いかというと、お茶ってスーパーで買うことが多いですよね。日常品を選ぶ中で、なるべく安いものを手に取りがちです。安い茶葉って正しい淹れ方(茶葉8g、お湯200cc)で入れると、不味さが際立つんです。エグ味も。そうすると「ちょっと 渋く入っちゃったね」とお茶っ葉を半分にしちゃうんです。結果として本来の味わいから離れてしまって、薄いお茶を飲むようになってしまうんです。

 

 

ハナコさん: なるほど。

 

新原: 急須にお茶を注いだら、1分待ちますね。

 

 

後編へ続く

 

対談で使用した商品はこちらです↓↓

racu急須|warenai

煎茶さえみどり

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