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the tea today no6 文筆家「ツレヅレハナコ」さんと話す日本茶の世界(後編)
前編に引き続き、文筆家のツレヅレハナコさんと、弊社代表、新原光太郎の対談の後編となります。後編では、実際にすすむ屋茶店のお茶を飲みながら、日本のお茶や楽しみ方について話しました。
※前編がまだの方はこちらからどうぞ。
ツレヅレハナコ食と酒と旅を愛する文筆家。著書に『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)『47歳、ゆる晩酌はじめました。』(KADOKAWA)、『食いしんぼうな台所』(河出文庫)、『ツレヅレハナコのおいしい名店旅行記』(世界文化社)など多数。
instagram @turehana1
ハナコさん: 日本茶に対して敷居の高さを感じるようになったのは、マンガ『美味しんぼ』の影響もあると思うんです。「玉露」の回を子供の時に読んで衝撃を受けて。その時に淹れ方にも作法が色々あって、「なんか怖いな、日本茶」と思ったり(笑)。
新原: それは、海原雄山さんのせいですね(笑)。日本茶も堅苦しいだけでないと異を唱えて自分は活動しています。
ハナコさん: 言うなれば、新原さんは「お茶界の山岡史郎」(笑)。
新原: そのキャッチフレーズ、いただきます(笑)。はい、1分経ちました。それではハナコさんにお茶を飲んでいただきます。
ハナコさん: すごく綺麗な色。今、三回に分けて淹れましたが、それって意味があるんですか?
新原: そうすることで茶葉が急須の中で回るんです。旨味が抽出されるというか。日本茶は横手の急須が多いんですが、それには意味があって、一説には鍵の動きと同じで日本人は慣れ親しんでいるからだと。
ハナコさん: なるほど。これが「さえみどり」。それではいただきます。あ、飲んだことのない緑茶の味がします。確かに美味しい。あれ、最初のインパクトと二口目以降が違いますね。
新原: そうなんです。甘味が最初にきて、その後に上品な味わいが追ってきますよね。
ハナコさん: まさに。美味しい…お出汁みたいな感じもします。
新原: ですよね。特に「さえみどり」は、熟成された感がありますからね。今のお茶の淹れ方、「8gの茶葉に200ccのお湯」で簡単じゃないですか。これをするだけなのに、いつものお茶がこんなに美味しくなるんです。
ハナコさん: 確かに普段飲んでいる日本茶とは全然違う…
新原: 一煎目を飲んでいただいて、8gの茶葉で四煎までいけます。ただ、美味しい成分で飲めるのは三煎目までですかね。計4回楽しめます。夕食後でも、四煎目だとカフェインも少なくなりますので、目が冴えることもないですし。
ハナコさん: 素朴な疑問なんですけど、今淹れていただいたじゃないですか。二煎目はすぐ淹れた方がいいですか?時間を置いてからの方がいいですか?私としては「一煎目の後にすぐ淹れないと、茶葉が変になってしまうんじゃないか」と思ってしまってて。
新原: 実際にはなるんです。添加物も入ってないですし、食材がそのまま置いてある状態ですから。なので、よろしくはないです。昔からよく言われるのが「宵越しのお茶は飲まない」。それはさすがに菌が出ちゃいますからね。とはいえ、1時間から2時間ぐらいの間であれば大丈夫かと。お湯で菌が死んでいくという側面はあります。厳密に何時間までがいいか、というのは私も調べないとです。
ハナコさん: そうか。でも一時間くらいは大丈夫なんですもんね。
新原: はい。問題ないと思います。結局、茶葉が水に浸かったままというのも良くないので。注ぐ時にしっかり切ってあげるといいですね。
ハナコさん: (急須の茶葉を見ながら)いつも私が飲んでいる茶葉は、こんな綺麗な色じゃないもんな…
新原: 実は茶葉にも「関東風」と「関西風」があるんですよ。静岡は「関東風」になりまして、愛知県の西尾というところがありまして、そこから西が関西風になります。そこは「かぶせ」と言いまして、茶園に黒い幕をはりまして、日光を当てないようにするんです。日陰を作って。そうすると、わずかな光を効率良く吸収するために、葉緑素をどんどん出していくんです。負荷をかけて筋トレするみたいな。そこで生まれた緑色には甘いとか、リラックス効果のあるテアニンなどが含まれます。玉露は、このかぶせが一番長いものになります。
ハナコさん: そうなんですね。玉露って一番美味しく、高級な茶葉の銘柄とばかり思っていました。育て方なんですね。なるほど。
新原: なので「今年は玉露を作ろう」「かぶせでいこう」と生産側でコントロールできるもんなんですよ。
ハナコさん: その分手間暇かかるから価格に反映されるんですね。
新原: 最近はお見かけしないんですが、「玉露」の生産にこだわりすぎる方もいて。茶園にポールを立てて幕を張り、藁をかけて木漏れ日のような状況を作ります。日が昇ってきたら、太陽の照り方に合わせて藁を動かしていくんです。つきっきりで(笑)。
ハナコさん: え!!過保護にもほどがある。
新原: 日が出ている間、ずっとそれですからね。それ普通できます?もちろん、そのお茶、高価になります(笑)。
ハナコさん: それはすごい(笑)。人件費いくらなんだってなりますよね。
新原: ですね。「かぶせ」の黒い幕をバロンスクリーンっていうんですが、色々と遮光率があって、それでお茶の味が変わっていきますね。毎回筋トレに耐える体、茶木・茶葉でないといけなくなるので、いきなり「玉露」の負荷を与えてしまうと木が死んでしまう可能性があるんです。
ハナコさん: なるほど。「玉露」にこんな背景があったとは面白い。本当知らない世界(笑)。海原雄山は「玉露は小さい急須で味わえ」「最後の一滴が美味い」と言ってたのを思い出しました(笑)。
新原: 「玉露」が美味しいか、普通の煎茶がうまいか。これは毎日フォアグラが食べたいか、毎日食パンが食べたいかと一緒で。まぁ違うことなんで。
ハナコさん: 以前、少し高級なビールをケース買いしていたことがあったんですけど、ある時、全然美味しくないなと思ったことがありまして(笑)。最初はとても感動してたのに、普通のビールを飲んだら「すごく美味しいな」と思ったくらいで。リッチ過ぎたんでしょうね。
新原: 自分はお茶屋の息子なのに「玉露」という漢字が読めなかったんです。「たまろ?」「たまつゆ?」みたいな。それくらい近寄りがたかったと(笑)。私にハナコさんのような表現力があり、その世界のことをしっかり言語化できたらいいんですけど。できないのでお店を作って、日本茶の世界を表現しています。所詮お茶、所詮毎日飲むもの。お高くとまる必要もないんですよ。
ハナコさん: お茶の呼び方も正直ビクビクしながら読んでいるところがあって。緑茶?煎茶?あれ、日本茶?みたいな。緑茶と煎茶って違うんですよね?!
新原: 正確には違います。でも、緑茶は緑色のお茶なので、その中に玉露、煎茶、抹茶は緑茶といえば緑茶です。緑色なので。正確には、玉露とかぶせ茶と煎茶が同じカテゴリーです。先ほどお話したかぶせ具合から。緑茶というと全体になりますね。
ハナコさん: なるほど!ビクビクして「日本茶」って言ってました(笑)。
新原: 日本茶には紅茶も含まれるんです。日本で作った紅茶は日本茶になるので。烏龍茶も。
ハナコさん: そうか、葉っぱの発酵具合ですもんね。
新原: 日本は緑茶の生産数が圧倒的で、紅茶も作っているとはいえ数は少ないですから。日本茶といえば緑茶をイメージされる方は多いですね。先日、日本で作った紅茶を「日本茶」と呼びたくて、パッケージにそう記したら、販売店さんから「紅茶じゃないですか?」「いえ日本茶です」の問答がしばし続いたことがありました(笑)。漫才みたいな感じになりまして。
ハナコさん: 確かに消費者はわからないかも(笑)。
新原: それくらい一般の認識だと紅茶は紅茶なんですよね。なんだか話してばかりになっちゃいました(笑)。それではハナコさんに「あさつゆ」を実際に入れていただきましょうか?
ハナコさん: はい。まずは茶葉を8gですね…やっぱりいつも半分くらいだったかも。
新原: それで茶葉を継ぎ足して飲むなら、8gで三杯飲んだ方が美味しいですし、得だと思います。
ハナコさん: ですよね。茶葉8gで200ccのお湯でふと思い出したのですが、この前、伊豆の下田に行った時に、そこに鰹節屋さんがあるんですよ。その場で削りたての鰹節を木箱に入れて、売ってくれるみたいな。そこのおばちゃんが言ってたのが、「みなさん出汁を取る時に鰹節の量が少なすぎる」と。このくらいの鍋ならこのくらい!」と一般的に浸透している倍量くらいの鰹節をおばちゃんは手に掴んでいて。今の日本ではお出しを削った鰹節から取る方が減っていて。昔だったら家庭で鰹節からお出汁を取る光景に触れていたけど、今はそもそも鰹節から出汁を取るという方が減ってしまっていて、その知識もないと。でも鍋にある程度鰹節を入れれば、それらしいものが取れるから…という話を聞いて。前回、デザイナーさんとの対談を読んで、緑茶も同じだなと思ったんです。あと鰹節って一種類なのかなと思ってたんですけど、鰹にも種類があるし、鯖節も鮪節もあり、それぞれに役割があるし、方向性も違う。料理に直接入れて食べる鰹節もあるようで。やっぱり専門家のお話を聞くと、知らないことだらけで。
今日も同じように感じました。業界の方には当たり前のことかもしれないけど、全然知らないことばかりだったし。量は確実に教えてくれる人がいないとわからないですよね。ではお湯を淹れますね。急須にお湯を入れる時、適したやり方ってあるんですか?
新原: 本来は茶葉に直接かけない方がいいんですよね。茶葉はゆっくり旨味を出していくんで、茶葉同士がぶつかってしまうので。紅茶はむしろ回した方がいいと言いますよね。香りが立つように。一方緑茶は香りは紅茶ほどなく、味を楽しむものなので。味本来を楽しむためには、急須を動かさない方がいいと思います。
ハナコさん: とすると、お湯は端っこからですか?
新原: ですね。色味を出したい時は、淹れる前に少し急須を回すだけで良いかと。
ハナコさん: へぇ…知らなかった。そうなんですね。直接お湯をかけるイメージでした。急須、やっぱりいいな。持ちやすいし、蓋も押さえやすい。お茶も最後まで出し切る感じがとてもいいですね!これはハーブティーなどにも使えそう。
新原: 他のお茶もおすすめですよ。
ハナコさん: では「あさつゆ」をいただきます。あ…違う。こちらは爽やか。別物です。なんだろう。最初の「さえみどり」の方が、なんとなくリッチな気がします。
新原: そうなんです。リッチな感じあると思います。「さえみどり」は横綱の位置づけです。お茶が好きな方からの信頼が厚く、味も香りも際立っているんです。「あさつゆ」は、好き嫌いがはっきり別れる品種ですね。「お茶をプレゼントしたい」と人から相談を受けた時は、「さえみどり」は万人受けしますよと。
ハナコさん: 確かに「あさつゆ」は個性的なお茶かも。今回対談のご依頼を受けて、私、全然お茶に詳しくないし、適任じゃないのにと思ってましたけど、こうして勉強する機会を与えていただき、嬉しいです。
新原: 「お茶って淹れるの面倒だから」「難しいから」と言われることが多いですが、まったくそんなことないし、敷居も低くて楽しめるもので。ハナコさんにもそれを感じていただいて良かったです。コーヒーを淹れる方がはるかにたいへんだなと思います。
ハナコさん: お出汁も世界一簡単な出汁が鰹だしと言われています。海外では出汁一つにしてもコンソメとか、材料も技術も使い、何時間もかかります。しかし、鰹節の出汁は、熱湯に鰹ぶしをいれるだけ。簡単で誰でもできます。それだけであんなに美味しい出汁がでる。そういうものを持っている国は日本だけです。お茶、コーヒー、紅茶、それぞれにルールがあったり大変でしょうけど、緑茶は誰が淹れても美味しいし、簡単にできるなと。すごく気楽なものだと今日感じました。
新原: そうなんですよ。めちゃくちゃ気楽なんです。今日の対談で、私が着物をまとって登場するシーンをハナコさんは想定したかもしれませんが、下駄履いてきたりして(笑)。それだと違うかなと思ってまして。日本茶に対するイメージ、堅苦しいものを取り除いていくことに専念しています。最近は色々なYouTuberが、日本茶を紹介しているのを見て。特に健康系が人気のようで。自分は商売をしているのもあるので、効能みたいなのは言い過ぎないようにしているんですが。
ハナコさん: それで思い出しましたが、煎茶ってあまり量を飲まない方がいいと聞いたことがありました。眠れなくなるからと。
新原: 確かにカフェインが入っています。もちろん緑茶を摂りすぎるのはNGですが一日数杯程度であれば全く問題ないです。最近、高濃度茶カテキンという言葉をよく聞くようになりましたが、毎日急須でお茶を飲めば、しっかりカテキンが取れますし、そもそも通常のお茶には高濃度なので。健康につながるのはありますね。静岡のある街では、お茶の摂取量と病気リスクを数値にしていますね。
ハナコさん: そうだ、静岡のおでん横丁に行くと、緑茶割りを飲んでいる方が多くて。澄んでいるというより濃い緑色ですが。静岡おでんをつまみに、美味しそうに飲むんですよ。なんとなく体に良さそうだなと思ったり。お酒だけど(笑)。新原さん、今日はとても勉強になりました。お茶との距離がグッと縮まり、飲む頻度も増えそうです。ありがとうございます。
新原: こちらこそありがとうございました。これからも緑茶の世界に関わる方々、生産者、問屋、小売り、消費者、皆さんがお茶を通して、豊かな毎日を過ごせるように、そのために全力を尽くしたいと思っています。
最後までご覧くださりありがとうございました。
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